質問箱への回答
競落人(買受人)との賃貸借契約内容に納得いかない場合は?
初めまして、永幸不動産株式会社の森下と申します。
ご質問ありがとうございます。
お住まいの物件が競売でオーナーが変わり、しかし、新たなオーナー(以下、「競落人」と言います)との契約内容に納得ができないということですね。
以下、ご質問者様様が「民法395条第1項の明渡猶予制度の対象である」ことを前提に回答いたします(※ご質問者様と旧所有者との契約が平成16年4月1日以降に締結されており、かつ抵当権の設定後に締結されているという前提です)。
まず、競売完了後の競落人(買受人=新所有者)と占有者(ご質問者様)との契約内容や契約の仕方になにかしらの拘束が生じるというわけではありませんので、ご指摘のようにあくまでも個人間での契約ということになります。
しかし、競落人は執行裁判所を通じて「引渡命令」発令の申し立てが出来るという強力なイニシアチブを持っています。
この引渡命令が発令されると、ご質問者様は物件を明渡さなければならなくなります。仮に命令を無視して居座っても、裁判所の執行官が強制執行してしまうことができるのです(※競落人との契約締結後はさすがに大丈夫です)。
そのため、競落人とご質問者様との契約に関する交渉において、ご質問者様はかなり弱い立場にあるとお考えいただいて差し支えありません。
これは重要なことですが、競落された物件の占有者というのは、法的に「賃借権がない=借りる権利を有していない」という宙ぶらりんな状況にあります。旧オーナーとの賃貸借契約は、競売成立によって消えてしまっているためです。
賃借権がない以上、通常は借主側を強力に保護している借地借家法も適用されず、保護の対象外となってしまいます。
6ヶ月間の明渡猶予制度というのも「6ヶ月は住んでよい」という前向きなニュアンスよりは、どちらかというと「賃借権がない占有者が物件を明渡すにしても、準備に6ヶ月は必要だよね」という、明渡すことを前提にした制度です。
一般的に、賃貸物件の契約内容は「契約自由の原則」のもと、貸主・借主双方が交渉権を持っているのが通常です。
しかし、ここまでの解説の通り、競売後の賃貸借関係は、引渡命令によるイニシアチブの面でも、賃借権がない状態での占有という面でも、借りていた側にとって相当に不利なものです。
ご質問者様にとっては酷な回答となりますが、基本的には提示された契約内容を飲んでその物件に住み続けることを選ぶか、契約内容に納得がいかないから退去するか、いずれかになるかと考えます。
但し、競落人との新しい賃貸借契約には通常どおり借地借家法が適用されますので、余りにも不当な内容であれば無効とされることがあります。その視点から、内容の検討をする余地はあると思います。
この点、一般的な不動産賃貸の現場でも残念ながらあることですが、借地借家法や民法に照らして明らかに無効な条文が契約書に盛り込まれていることがあります。
この場合、いざ無効な条項をもとにして競落人から何かのアクションを取られたとしても、無効なものは無効ということになります。それが初めから分かっていれば、少しは気も楽になるかも知れません。
(※弊社にこっそり契約書の条文を送っていただければ、内容検討ぐらいはします)
以上、参考になれば幸いです。