賃貸物件のオーナー様向け
大家さんが注意したい賃貸借契約書の知識
永幸不動産株式会社の代表、森下です。
・・・自己紹介の仕方、永幸不動産株式会社の社長でもいいんですが、なんとなく社長と呼ばれたり名乗ったりするのに違和感がありまして、代表にしておこうと思います。弁護士法人や司法書士法人に倣って代表宅地建物取引士ってのもアリじゃないかと思ってますが、長いんだよなぁ。
さて、さっそく大家さん向けの記事を書いてみようと思います。
この賃貸借契約書ですが大家さんの賃貸経営にとってかなり重要なポイントなのに、実務上は意外に軽視されているなぁと感じている部分です。
◆賃貸借契約業務の流れ
まず、ごく一般的な賃貸契約の流れはこんな感じです。
- 大家さんが管理会社・不動産会社に募集を依頼する
- 借主さんから申込みが入ると、管理会社と大家さんで入居審査をする
- 審査が終わると、管理会社が重要事項説明書と一緒に契約書を作成
- 借主さんは契約金を支払い、重要事項説明を受け、契約書に署名捺印する
- 最後に大家さんに契約金をお渡しして、契約書に署名捺印してもらう
- 完成した契約書を借主さんにお返しして、契約業務完了!
多くの大家さんにとって、この流れに異論はないと思います。
・・・が!
異論がないのがすでにおかしい部分があります。4・5の順番です。
先に借主さんが契約書に署名捺印をし、最後に大家さんが署名捺印をすることで契約書が完成します。
すると、大家さんが契約書の内容をチェックできるタイミングは最後の最後となり、借主さんはすでに契約金を支払ってますから、ここから契約書の内容を検討してやっぱり白紙撤回、というのはかなりリスクのある行為になります。
実際、借主さんが契約金を支払って契約書に署名捺印をしたあと、入居予定日の前日に大家さんが契約を断ったという内容で、大家さんに対する慰謝料の請求が認められたという判例があります(ちょっと論点がずれる裁判ではありますが)。
◆入居申込者の国籍を理由に賃貸借契約の締結を拒絶したことの不法行為責任が認められた事例(一般財団法人不動産適正取引推進機構:REITO判例検索システムより)
まあ実際には、管理会社が持ってきた契約書を読まずにそのまま署名捺印して終了、ということの方が多いのでしょうけども、その結果、ある時大問題を引き起こす可能性だってあるわけです。
◆賃貸借契約書について大家さんに知っておいてほしいこと
特に一般媒介で様々な不動産会社・仲介業者に募集依頼をしている大家さんには本当に注意してほしいのですが、不動産会社・仲介業者が作成する賃貸借契約書は統一書式ではありません。
いわゆるハトマークの会員であればハトマーク書式、ウサギマークであればウサギマーク書式・・・というのは主に売買契約の話です。協会書式に準拠した独自書式や、加盟FC書式ならばまだ良い方で、恐ろしいことに今でもあるのは文房具屋で買えるような市販品を使っている、というパターンです。
その契約書って、文房具屋さんにはいつ入荷したのでしょう・・・その契約書を購入してから契約締結までに法改正はなかったのでしょうか・・・などと考え始めると恐ろしすぎてなかなかエキサイティングです。
結果、同じアパート内でもAさんの契約書はしっかりしているのにBさんの契約書はユルユルでトラブルに対処できない・・・というのは冗談でも何でもなく、本当に起こっていることです。
Bさんにトラブルが起きたらその時に仲介した業者に責任を取らせればいい! と考えがちですが、その業者さんが廃業してたらどうしましょう?
統計上、不動産業者数は平成25年度~平成27年度にかけて増加していますが(国土交通省:不動産に関するデータ集より抜粋)、これはあくまでも純増数(新規開業数から廃業数を引いた数字)です。私が出席している協会の会議でも毎月、廃業業者の数が報告されています。
◆大家さん、これだけは注意して契約に臨みましょう
あくまでも契約を締結しているのは借主さんと大家さんの二者間です。
そして多くの大家さん、管理会社・不動産業者さえも忘れがちなのが、その契約が20年以上もの長期間に渡るケースは珍しくないという事実です。
問題が起きたときに業者が廃業・引退していたら、大家さんが自分でなんとかするしかありません。ついでに、業者がいなくなった場合、火災保険の失効や保証会社契約の失効、連帯保証人の所在がわからなくなる、スペアキーの所在が・・・などなど、雪だるま式に契約上のエラーが増えていきます。
簡単にできる契約書チェックの対策としては、下記3つが考えられます。
①契約締結前に、管理会社・不動産会社から契約書の雛形を送ってもらって事前チェックする
②募集する会社を一社に絞り、契約書の内容をすり合わせておく
③自分で契約書を作成し、どこが仲介してもその書式を使う
弊社では管理物件の大家さんについては①及び②で、そして募集のみの大家さんについても①にて対応をするようにしています。可能な場合は大家さんにも借主さんと同じように、対面で契約書の内容について説明を受けていただいています。
③は弊社でお取引している大家さんにもたまにいらっしゃいます。ただ、法律は目まぐるしく変わっていってしまうので、本当に自信がある方でないとあまりおすすめできません。
というわけで、次回の契約のときはちょっと気をつけてみましょう!