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宅地建物取引士試験の出題傾向から考える、不動産業界の未来

平成30年度の宅地建物取引士資格試験の問題用紙

永幸不動産株式会社の代表、森下です。

平成30年度の宅地建物取引士資格試験を受験された皆様、本当にお疲れ様でした!

・・・この記事、書こう書こうと思っているうちに、だいぶ時間が経ってしまって完全に時期を外した感がありますが、めげずに書いていこうと思います・・・。

 

今年は多くの資格予備校さんが言うように全体としては問題の難易度が下がり、合格点もこれまでにない高水準になるのでは、という予想が多いようですね。いつもなら35点前後が合格点に設定されることが多いようですが、日建学院さんなどは最大で38点が合格基準点になるかもしれない、という予想を出しています。

合格発表までの間、ドキドキする方と合格確実な方、そして早くも来年に向けてのスタートダッシュを切っている方、様々かと思います。

予備校さんなどではどうしても出題傾向分析=試験対策になってしまいますが、この記事ではちょっと違った角度から宅地建物取引士試験の内容について考えてみたいと思います。

 

◆平成30年度 宅地建物取引士試験の特徴

私もとある事情で今年の問題を入手しましたが、今年の大きな特徴として指摘できるのは法改正にまつわる問題が非常に多かったという点ですね。

  • 田園住居地域(都市計画法・建築基準法)
  • 建物状況調査(媒介契約・重要事項説明)
  • 建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者双方が確認した事項(売買契約書)
  • 建物の維持保全の状況に関する書類保管について(売買の重要事項説明書)
  • 宅地建物取引業者が借主・買主である場合の供託所等に関する説明・重要事項説明省略について
  • 低廉な空家等の媒介に係る報酬の特例
  • ITを活用した重要事項説明

テーマを絞り込めばもうちょっと減ると思いますが、各論的に挙げていくとこんなに多くの法改正ポイントが出題されています。

特に重要な法改正が多かったという理由ももちろんあると思います。実際、例えば建物状況調査=インスペクションに関しては宅建業法の改正としてはけっこうインパクトのある内容でしたから(※個人的にはまだまだ発展途上で不十分な制度だと思いますがそれは別稿にて・・・)我々が所属している協会の研修でも繰り返しテーマになっていましたし、昨年度の登録実務講習でも施行前からちゃんとカリキュラムに盛り込まれていました。

ただ、それでもこんなにも多くの法改正問題が出たことはあまりないと思いますし、その理由・バックグラウンドを考えると、もうちょっと複雑な理由があると見ています。

 

◆法改正にきちんと対応できる宅地建物取引士が求められている

たぶん、予備校の先生方も口を酸っぱくして言われていると思いますが、2020年4月1日に民法が大幅に改正されますので宅地建物取引士試験の内容(特に民法分野)もガラッと変わります・・・ので、何度も受験しているベテラン受験生はそろそろ受かっておかないと14問も出題される民法・権利関係の知識をリセットしなければいけなくなります。

そしてもちろん、実際の実務に携わっている宅地建物取引士各位もこれにきちんと対応しなければなりません。そうしないと特に、賃貸仲介・賃貸管理分野は大変な混乱に見舞われることになってしまいます。

用意周到なことに、宅地建物取引士に名称が変わった平成26年に、宅建業法に下記のような規定が新設されています(この話は色々なところでしているのですが、業界内でも反応が薄いのがちょっと悲しい)。

  • 宅地建物取引士は、宅地建物取引の専門家として、常に最新の法令等を的確に把握し、これに合わせて必要な実務能力を磨くとともに、知識を更新するよう努めるものとする。
  • 宅地建物取引業者は、その従業者に対し、登録講習をはじめ各種研修等に参加させ、又は研修等の開催により、必要な教育を行うよう努めるものとする。

要するに勉強し続けろよという力強いメッセージです。これらの規定はあくまでも努力義務ですが、その努力を怠ったために法改正に対応できず、大家さんや借主さんに迷惑をかけてしまいました・・・というような業者を、世間も行政も専門家とはみなしてくれません。

この改正は平成26年ですが、民法改正に向けて法務省が動き出したのは平成18年、衆議院に提出されたのは平成27年ですから、上記の改正に関しては当然のごとく民法改正への対応も考慮されていたはずです。

これらの背景を考えると、今まさに求められているのは宅建業法の細かな改正にも対応でき、民法の大改正が行われても着実に対応できる宅地建物取引士ということになりますから、今年度の試験で法改正問題が大量に出題されたことにもきちんと意味はあるのだと、森下は思っています。

来年は民法改正前最後の宅建士試験になりますが、一方で宅建業法の改正はそう多くないはずですから、これまでの総まとめ的な出題になるのではないかなぁと思います。あとは、民法改正前後引っ掛けとか、このブログでも解説した定期借家契約・事前説明書の取扱など今年は出なかった改正点とか、一応IT重説の売買取引がどうなるかはチェックしておいたほうが良いのではとか、そんな感じですかね。

 

◆平成27年度 宅地建物取引士試験の問35

「そうは言っても、たかが資格試験の出題傾向にメッセージ性なんてあるの?」と思われる向きもあるかもしれませんが、森下はあると思っています。

とある事情で、ここ数年は宅建士試験の試験問題をその日のうちに入手しているのですが、読んでいてそのメッセージ性が心に響いたのは平成27年度試験の問35ですね。

「試験問題が心に響くってなんだよ!?」 と思われるかもしれませんが、ちゃんと真面目に勉強して宅地建物取引士になりたい! という人が試験本番の緊張の中でこんな問題を見たら、きっと勇気づけられたんじゃないかなぁと思います。まあ実際、あまり難しくないサービス問題でもあります。

以下に引用して、この記事を締めくくりたいと思います。改めて見ると「正しいもの」選択なのもミソだなぁ。なお、正解は各自調べて下さい(笑)

❝【問35】宅地建物取引業法の規定に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

1 「宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならない」との規定があるが、宅地建物取引士については、規定はないものの、公正かつ誠実に宅地建物取引業法に定める事務を行うとともに、宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携に努めなければならないものと解されている。

2 「宅地建物取引士は、宅地建物取引業の業務に従事する時は、宅地建物取引士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない」との規定がある。

3 「宅地建物取引士は、宅地建物取引業を営む事務所において、専ら宅地建物取引業に従事し、これに専念しなければならない」との規定がある。

4 「宅地建物取引業者は、その従業者に対し、その業務を適正に実施させるため、必要な教育を行うよう努めなければならない」との規定があり、「宅地建物取引士は、宅地又は建物の取引に係る事務に必要な知識及び能力の維持向上に努めなければならない」との規定がある。❞

 

 

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