賃貸物件のオーナー様向け

大家さんが注意したい、定期借家契約の落とし穴

定期借家契約書の表紙

永幸不動産株式会社の代表、森下です。

今回のテーマは定期借家契約です。

昨今では大家さん向けの不動産経営指南本なども数多く出ており、いろいろな本でこの契約の活用術が紹介されています。実際、有名大家さんの中にもこの契約を活用している方は多いですし、効果的に活用されていると思います。

しかし中途半端に使おうとすると、いざという時に思っていた効果を得られないという落とし穴がいくつもあるのがこの契約です。

定期借家契約とて決して万能ではないということ、そして注意すべきポイントについて指摘します。

 

◆そもそも定期借家契約とは?

あまり基本的なことばかり書いててもあれなので、ここはサクッと引用ですませます。

 

  普通建物賃貸借契約 定期建物賃貸借契約
1. 契約方法

書面でも口頭でも可

  1. 「更新がなく、期間の満了により終了する」旨を契約書案とは別に、予め書面を交付して説明しなければならない。
  2. 公正証書等による契約の書面が必要。
2. 更新の有無  更新には合意による更新と法定更新がある。 無 ただし、合意により、再契約をすることはできる。
3. 契約期間の上限
  1. 2000年3月1日より前の契約は20年
  2. 2000年3月1日以降の契約は無制限
無制限
4. 1年未満の契約 「期間の定めのない契約」とみなされる。 有効
5. 賃料の増減 第32条の規定による。ただし、一定の期間、賃料を増額しない旨の特約がある場合には、その定めにしたがう。 特約がある場合、第32条(賃料増減額請求権)の規定は適用されない。
6. 借主の中途解約 中途解約特約がある場合には、その定めにしたがう。
  1. 床面積200㎡未満の居住用建物については、借家人が、転勤、療養、親族の介護等のやむを得ない事情により、建物を生活の本拠として使用することが困難となった場合には、借家人の方から中途解約の申入れをすることが可能(申入れ後1か月の経過により賃貸借契約が終了)
  2. 1.以外の場合は途中解約に関する定めがあればその定めにしたがう。

一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会,2014『賃貸不動産管理の知識と実務:賃貸不動産経営管理士公式テキスト』大成出版社❞

有名大家さんたちが実践し、活用しているポイントは「2. 更新の有無」の部分ですね。

普通建物賃貸借契約の場合、入居されている方が家賃を1~2ヶ月ぐらいをしばしば滞納するとか、少々のトラブルを起こしたという程度だと契約解除や更新拒絶をしても認められず、合意更新に至らない場合は法定更新という制度があるのでそのまま住み続けることができてしまいます。

一方、定期建物賃貸借契約の場合、法定更新制度自体がないので、合意に至った場合のみ再契約をすることにより、トラブルを起こすような方がもし入居してしまっても、再契約を拒否すれば確定的に契約が終了します。これを繰り返していくと、トラブルを起こさない方だけが残り、ご入居者様たちにとっても良好な住環境を維持することが出来る、というわけです。

 

◆新規契約時、気をつけなければいけないポイント

便利な定期借家契約ですが、成立要件が借地借家法という法律で厳格に定められており、要件を満たしていないと定期借家契約が成立しない=契約が無効・・・ではなく、普通借家契約が締結されたものとみなされてしまいます。すると上記の効果が得られません。

新規契約で特に注意したいポイントは定期借家契約独特の制度である事前説明書です。引用した表の右上「更新がなく、期間の満了により終了する」旨を契約書案とは別に、予め書面を交付して説明という部分ですね。

この事前説明書、契約書とは別の書面にする必要があります。その様式・方法も厳格であるべきとされていて契約書の中に「本契約は定期借家契約であり、更新がない」と記載されているだけではダメで、別個独立の書面が必要というよく参照される平成24年・最高裁の判例があります。

❝借地借家法38条2項所定の書面は、賃借人(事業者)が契約更新がなく期間満了で終了すると認識していたとしても、契約書とは別個独立の書面とすることを要するとした事例(一般社団法人不動産適正取引推進機構:REITO判例検索システムより)❞

これと真っ向対立する契約書に定期借家契約である旨が明記されていて、その旨を読み聞かせて説明を受けているのなら別個独立の書面が常に必要とまでは言えないという趣旨の平成19年・東京地裁判例もありますが、地裁の判例ですし法人間での倉庫の賃貸借という事案なので、業界内でもあまり重視されていません。アパートやマンションを大家さん(=事業者!)が個人(=素人)に貸し出す場合、この判例が考慮されるとは考えがたいところです。

❝定期建物賃貸借で交付する書面は、契約書と別個独立の書面を要しないとした事例(一般社団法人不動産適正取引推進機構:REITO判例検索システムより)❞

さて、大家さんが管理会社や不動産業者に募集や契約業務を依頼している場合、基本的にはその業者が書類を作成し、事前説明も重要事項説明の際に業者が代理して行っていると思いますが、その業者が作成した契約書類が法定要件を満たしているかどうか、ちゃんと確認したことはありますか?

例えば、

  • 事前説明書自体が作られていなかったら?
  • 業者が事前説明書を交付して説明したのに、その控えが大家さんの手元に渡らなかったら?
  • 同様に、事前説明書の控えに借主さんの署名捺印がなかったら?

弊社はこれまでに客付け側=借主さんの側に立って仲介をするお仕事って結構な数をこなしてますが、この辺りの基本が守れてなくてなんちゃって定期借家契約(=普通借家契約)になっている契約、結構ありましたので・・・。

 

さて、今回の記事で全部まとめるつもりでしたが結構論点の多い制度なので、続きはまた改めてにしようとお思います。

残っている他の論点は、

といった辺りですね。1回の記事でまとまるわけなかった・・・。

それではまた!

 

 

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